いままで難聴(特に感音難聴)の多くが原因不明とされ、難聴と診断された方は、その原因が分からず対処の方法も明確ではないために、不安を感じながら過ごされてきました。近年、原因不明と言われている難聴の多くに、遺伝子が関わっていることがわかってきました。現在、先天性難聴の約50~60%に難聴の遺伝子変異が関与しているといわれており、今後の医学の進歩によりこの割合はさらに増えていくかもしれません。
難聴の遺伝子変異はうまれつきの難聴だけでなく、きこえにくさがあとから発症したり進行したりするケースにも関わっています。現在、難聴の遺伝子は120種類ほど報告されています。このうち、2022年9月より保険診療で、50遺伝子1135種類の変異を検索することができ、難聴患者様全体の約40%、遺伝子の関与する先天性難聴患者様のうち約50%の症例で、原因遺伝子変異が判明するようになりました。当院では、この検査を保険診療で行うことができます。検査は静脈採血で行い、成人の方は基本的にはご本人(ケースバイケースです)、お子様はお子様ご本人とご両親の採血となります。難聴のない方はこの検査を受けていただくことはできず、また、遺伝性以外に明らかな難聴の原因がある場合にはこの検査を受ける必要はありません。遺伝子診断を受けようかお考えになられている方は、まずは一般診察をお受けになり、お尋ねください。
検査を実施して全ての方に結果が出るわけではありませんが、もし難聴の遺伝子変異あり、との結果が出ましたら、変異の種類により、高い音の聞こえが悪くなるのか、低い音の聞こえが悪くなるのか、今後悪化する可能性が高いのかそうでないのか、難聴の他にも症状が出る可能性があるか、次に考えておられるお子さんが難聴となる確率、次世代の方の難聴発症率、など様々な情報が得られます。わかる情報のうち、お知りになりたい項目を事前にしっかりききとりさせていただき、結果については日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医の院長が、カウンセリングの時間を設けてお話しします。
また、当院は信州大学医学部人工聴覚器学講座の共同研究施設でもあります。ご希望に応じて、保険診療で発見することのできない遺伝子についてもさらに踏み込んだ検索を行うことができます。詳しくはご受診いただいたときに、パンフレットや動画を用いて、わかりやすく説明いたします。
遺伝子検査で結果をきくときには、みなさま、様々な質問が出たり、ご不安になられたりします。当院では、遺伝に関する正確な情報を、ゆっくり時間をかけてご理解いただき、ご本人やご家族が結果を前向きにとらえることができるよう、お手伝いをするために、カウンセリング経験豊富な院長が、他の診察とは時間を分けて、静かな環境で遺伝カウンセリングを行います。また、院長は京都府立医科大学大学院医学研究科修士課程遺伝カウンセリングコース非常勤講師を兼任しており、臨床遺伝指導医や臨床遺伝カウンセラー、各診療科の遺伝医療に通じた専門医が在籍連携する遺伝相談室にて、院長および他のスタッフによるカウンセリングを受けることもできます。必要やご要望に応じて、遺伝相談室でのカウンセリングをおすすめする場合があります。